他チームの会議で「この内容を持ち帰って検討してほしい」と頼まれた。
誠実に対応しようと、所属チーム向けのアジェンダを用意して臨んだ――はずだった。
ところが、会議後に方針が変わり、準備した内容が“ずれて見える”。
悪いのは誰でもない。けれどその瞬間、「この人、わかっていないな」という空気が流れる。
気づけば、信頼を失った側に回っていた。
越境が日常化した今、「頼まれた通りに動く」ことが、信頼を損なうリスクになっている。
誠実さが裏目に出る時代に、PMはどう立ち回るべきだろうか。
■ 忠実さが裏目に出る構造
プロジェクトでは、依頼に正確に応えることが善とされてきた。
しかし今の現場は、複数部署・複数企業が関わるマトリクス型が主流。
依頼者自身が“全体像を知らない”ことも多い。
依頼を鵜呑みにすれば、全体方針の変化に追従できず、
結果として**「状況を読めていない人」**と見なされてしまう。
依頼は事実ではなく、“その時点の仮説”だ。
背景を読み取り、自分の言葉で再構成する力が、今のPMには求められている。
■ ベテランPMは「依頼を翻訳する」
優れたPMは、依頼の背景を読む。
たとえば「資料をまとめて」と言われたとき、単に整形するだけでなく、
「なぜ今まとめる必要があるのか」を考える。
依頼の奥にある“意図”を解釈し、構成や切り口を調整する。
結果として、依頼内容とは少し違うものを返すことになるが、
それが**「よく分かってくれている」**と評価される。
誠実さとは、忠実さではなく、相手の意図を叶える構造的思考だ。
■ 越境PMに求められるのは「関係性の設計」
PMOや調整担当は、部門と部門の間をつなぐ“越境者”だ。
越境者の価値は、依頼を正しく伝えることではなく、
各チームの言語・文化・目的を翻訳する力にある。
依頼を通じて、信頼と理解の回路を設計できるか。
「この人に頼めば、全体の意図を踏まえて整理してくれる」――
そう思われた時点で、成果物以上の信頼が生まれている。
言われた通りに動く人より、言わんとすることをくみ取る人が、信頼される。
越境が前提のプロジェクト時代、**PMの成果物は“資料”ではなく“信頼構造”**だ。